不振のウルグアイにあって、FWスアレス(リバプール)が奮闘している。
コンフェデ杯のスペイン戦では圧倒的劣勢に立たされながらも、直接FKを見事にたたき込んで1点を返し、意地をみせた。
昨季のプレミアリーグでは得点ランキング2位の23ゴール。前回ワールドカップ4強入りの立役者の一人が、いかんなく実力を発揮している。
W杯南米予選でウルグアイは現在5位。出場権が自動的に与えられるのは4位以内なので苦しい位置だ。出場権をつかめるかどうかは、このエースFWの頑張りにかかっていると言ってもいいだろう。
ところで、スアレスにはネガティブなイメージがつきまとう。
まずシュミレーションが多いとの評判があり、審判から嫌われているようだ。最近ではチェルシー戦で相手選手の腕にかみつき、10試合の出場停止処分を受けている。
世界中の人たちの記憶に残っているのは、W杯南アフリカ大会準々決勝ガーナ戦でのハンドだろう。同点で迎えた試合終了間際、相手の決定的なシュートを手で阻止したプレーだ。
もちろん一発退場になったが、止めていなければゴールが入って100%負けていた。レッドカードと引き換えにかすかな勝利への可能性にかけたプレーだったが、結果は吉と出た。相手がPKを外し、その後のPK戦にウルグアイが勝って4強入りしたのだ。
このプレーについて、世界中からスアレスに非難が浴びせられた。「明らかに故意の反則で、スポーツマンシップに背くものだ」というのが理由だ。
でも、自分はスアレスのプレーを支持する。そこに南米の魂を感じるからだ。
パラグアイで「なぜこの国はサッカーが強いのか」と協会幹部に聞いたことがある。彼はこう答えた。「この国には何もない。あるのはサッカーだけだからだ」
パラグアイやウルグアイといった国について、みんな何を思い浮かべるだろうか。経済大国でもなければテクノロジーが発達しているわけでもない。サッカーに対する情熱だけが、国の誇りだ。
南米にはサッカーによって貧しさから脱しようとする若者が大勢いる。それが唯一の手段であることも多い。スアレスも子供のころは非常に貧しかったという。
彼らにとって、サッカーは「スポーツ」ではない。一つのシュート、一つのプレーが人生の行方を決める。文字どおり、サッカーは人生そのものだ。
それを日本の価値観だけで非難するのは間違っていると思う。日本と違ってサッカーは教育の手段ではないのだから。
あの場面。とっさに手を出して勝利をたぐり寄せることのできる日本選手は果たしているだろうか。相手にかみつくだけの情熱を持つ日本選手はいるのか。
スアレスはまさに南米サッカーを象徴しているように思えるのだ。
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