2013年6月30日日曜日

ブラジルの優勝が近づいている~コンフェデ杯


コンフェデ杯は30日、リオデジャネイロのマラカナン競技場で決勝を迎える。

これまでの試合ぶりを考えると、ブラジルの3連覇の可能性が高いと見る。

ブラジルはメンバーが固定されてきた。決勝も同じメンバーで戦うとスコラリ監督は明言している。

ネイマールが切れていて、フレッジとの連係も上々。今大会、2人だけで6得点をたたきだしている。エースが調子に乗っているのは、若いチームにとって心強い。

左サイドバックのマルセロが攻撃に絡む場面も増えてきた。大会前の親善試合では、攻撃が持ち味の両サイドバックが駆け上がる機会が少なく、攻めのバリエーションが乏しかった。それが、大会を通じて徐々に改善されてきた。

ダビド・ルイスとチアゴ・シルバの両センターバックの守備が安定しているのも大きい。時折、不用意なミスを犯すことはあるけれど、身体能力の高さを生かしたディフェンスは安心して見ていられる。

なによりも大きいのはホームということ。大観衆の応援は心強い。

一方、スペインはフォルタレーザの炎天下で延長戦を戦っている。準決勝のイタリア戦では動きに従来のスピードがなく、華麗なパス回しが見られたのは終盤のわずかな時間だけだった。

休養は中2日で、ブラジルよりも1日短い。移動距離も長く、疲労を回復するのは難しい。

ブラジルのスコラリ監督は「スペインは2戦目のタヒチ戦で主力を休ませている分、有利だ」などと言っているが、そんなことはないだろう。

残念ながら大規模デモが相次いで、ブラジル国内ではスタジアム外のニュースの方が大きく取り上げられることが多かったコンフェデ杯。決勝当日も、マラカナン競技場に向けたデモが予定されている。

ブラジルの優勝で、国民の注目が少しでもサッカーに戻ってくれれば、とも思う。

2013年6月29日土曜日

本田圭佑の焦りを想像する


本田圭佑のACミラン移籍が取りざたされており、多くのサッカーファンが注目している。一番気になっているのは、もちろん本人だろう。

本田が常々口にしているのは「ビッグクラブに行きたい」ということ。そのチャンスを迎えている。

ところで、コンフェデ杯が始まる前に本田は「優勝を狙う」と言い切った。結果は3連敗。イタリア戦に敗れた後、本田が悔し泣きしたという情報も流れた。だれよりも結果が欲しかっただろうし、心から悔しかったに違いない。

その理由に、本田の「焦り」があると思う。

本田は大会前の今月13日に27歳になった。世界のトップを目指す彼にとって、残された時間は決して多くない。

周りを見渡せば分かる。バルセロナに移籍したブラジル代表のエース、ネイマールはまだ21歳。同じくブラジル代表でチェルシー所属のオスカルも21歳だ。

24日に26歳になったメッシは本田の1歳年下ながら、すでに4度のバロンドールを獲得している。

日本選手を見ても、マンチェスター・ユナイテッドで実績を積み始めた香川は24歳。インテルで活躍する長友も年下の26歳だ。

正直、本田圭佑は大成すると思っていなかった」で書いたが、本田はいわゆる「日本人らしい」選手ではない。「日本人らしい」技術の高さや俊敏さを生かす香川や乾、清武らはすぐにドイツのブンデスリーガで活躍した。

けれど、本田の歩んできた道はオランダ2部VVVフェンローからロシアのCSKAモスクワ。ヨーロッパの主要リーグに比べれば注目度の少ない、裏街道だ。ほかの日本選手とは違い、トップを目指すには回り道とも言える。

日本では認められているけれど、本田は「いまだに何も成し遂げていない」と考えているに違いない。中田英寿が引退した年齢は29歳だ。ビッグクラブに入団し、世界が注目する中で活躍するには今回の移籍が最後のチャンスかもしれない。

だから、一つ一つの大会、試合を人一倍、必死の思いで戦っているのだ。


2013年6月28日金曜日

ブラジル社会は暴力に寛容なのか


コンフェデ杯準決勝のブラジル-ウルグアイ戦があったベロオリゾンチでは、同じころに5万人のデモが起きていた。デモ隊は市の中心部から競技場を目指して行進。スタジアムへの侵入を阻む警官隊と衝突した。

あとはお決まりの結末だ。投石し、フェンスを壊そうとするデモ隊に対して警官隊が催涙弾を発射。放火や強奪が起きて混乱に陥る。

翌日の街にはあちこちに破壊の跡が残っていた。スーパーは完全に壊され、銀行も窓ガラスが割られてベニヤ板で覆われていた。放火されて一部が焦げた建物もあった。

ブラジルに広がるデモの背景を考える」で書いた後も、さらに暴力的な傾向は高まっている気がする。デモ行動が発生して以降、デモ関連の死者数は5人になった。

スペイン-イタリア戦でも、競技場の近くまでデモ隊が迫り、警官隊と衝突した。まだ収束する気配がなく、今後増えるかもしれない。

デモについていろんなブラジル人に聞いているのだけど、今までのところ、ぼぼ全員がデモを容認している。そして、デモが暴徒化することについては決まってこういうのだ。「そういうことをするのはごく一部の人間だ」と。

そうだろうか。毎日、各地で繰り広げられているデモはほとんどが最後には破壊活動で終わっている。彼らは準備万端だ。集合した時点からガスマスクを装備したり、サングラスやスカーフで顔を隠したりしている。リュックを背負っており、道具を隠し持っている。最初から暴力をふるう気が満々なのだ。

デモの参加者は彼らについて何も言わず、黙認している。衝突が始まると「暴力反対」と叫んで止めようとする人たちも出てくるけれど、たいてい歯止めにはならない。サンパウロ州庁舎を破壊して逮捕されたのは大学生だった。

デモに関する世論調査によると、暴力について「絶対反対」なのは66%。言い換えれば、3割以上の人たちは状況次第で暴力をふるっても構わないと思っている。

警察に対する不信感もある。警察がデモ隊に対して過剰な暴力をふるう映像は動画サイトにアップされている。

警察の方もデモ隊への嫌悪感があるという。今回のデモは大学生ら比較的裕福な「中間層」が中心だ。安月給で教育レベルも低い現場の警官たちにとってみれば、嫉妬の対象でもある。

彼らからすれば、盗みを働く連中の方が社会階級で言えば親しみを覚える階層なのだ。だから、放火や略奪は見逃してもデモ隊の鎮圧に対しては催涙弾を乱射することになる。

年間5万人が殺されるこの国の人たちは、暴力と隣り合わせに住んでいる。それが日常になると、暴力に対する感覚が麻痺するのかもしれない。

2013年6月27日木曜日

負けてもウルグアイは強かった~コンフェデ杯=ブラジル-ウルグアイ戦


ベロオリゾンチでの準決勝。会場は5万7483人の観客で埋まった。

最初にブラジルの国歌斉唱でハプニングが。途中で演奏が止まってしまったのだ。だけど、ここで観衆は大声を張り上げた。伴奏無しで国歌が歌い継がれる。ホームならではの一場面だった。

ウルグアイが勝つには、数少ないチャンスをものにするしかない。その好機がやってきたのは前半12分。ルガノがペナルティエリア内でダビドルイスに引きずり倒された。ビデオを見ると、明らかな反則。審判の目の前でもあり、やむを得ない判定だ。

ダビドルイスは能力は高いけれど、ブラジル選手らしい、ずる賢い反則が多いように感じる。

ちなみにこの試合、ブラジルの反則は12個で、ウルグアイは24個。中盤でボールを持つと、ことごとくファウルでつぶす南米勢同士特有のゲーム展開だった。

試合後の会見でスコラリ監督は相手のファウル数を強調していたけれど、これは「ブラジルは反則が多すぎる」という批判に反発してのものだ。

スコラリ監督自身、ファウルで止めることを積極的に選手に推奨しているととられる発言が過去にあり、批判を気にしていたのだと思う。

これは南米サッカーの文化で、試合がしょっちゅう止まって面白くないと思うこともある。一方、全力で守備に戻り、体をぶつけてファウルで止めるプレーなんかを見ると、気迫がこもっていてわくわくする。

「問題児」スアレスに見る南米サッカーの魂で書いたように、魂がぶつかり合うような激しさを見ると、「これもありかな」と感じたりもするのだ。

話を戻そう。

フォルランがけったPKはジュリオセザールに止められた。ここで、ウルグアイの勝利は遠のいた。ウルグアイが勝つには、このPKを入れるしかなかったのだと思う。

試合後、タバレス監督も悔やんでいる。「『もしも』と言うのは嫌いだが、あのPKを外したことでブラジルは元気を取り戻してしまった」。外したのがフォルランだから、仕方ないけれど。

あとはブラジルが一方的に攻めた。ついつい日本と比べてしまうが、相手が日本だったら、ずるずると大量失点していたに違いない。

だけど、ウルグアイは必死に耐えた。最後まで試合を分からないものにしたのは、フォルラン、カバニ、スアレスをそろえた世界トップクラスのFW陣の能力と、運動量が落ちてもここぞの場面では体を寄せて守ることのできる経験値の高さのおかげだ。

カバニは相手のミスを見逃さずにいったんは同点にしたし、ディフェンス陣は反則を繰り返しながらも攻撃を止めた。

勝負にかける執念と気迫は、この国のサッカーの歴史と伝統を思わせる。負けてもなお、ウルグアイは強いと感じた試合だった。

2013年6月26日水曜日

コンフェデ杯、W杯で最も大切なことを忘れないようにしたい


コンフェデ杯とワールドカップが、ほかのサッカーの試合と決定的に異なる点がある。

それは、観客席がホームとアウエーに分かれていないことだ。敵も味方も、サポーターたちはごちゃまぜに座る。

敵味方がきれいに分断され、2つのチームカラーに色分けされたスタジアムを見慣れていると、ちょっと不思議な感じがする。

開幕戦のブラジル-日本戦でも、両国のサポーター同士が声をかけ合い、肩を組んで写真に収まる光景があちこちで見られた。そんな様子を見ているだけでサッカーっていいなあと思う。

コンフェデ杯の観客はブラジル人がほとんどだったから、ブラジルカラーの黄色がスタジアムのほとんどを占めた。だけど来年のワールドカップでは、各出場国のサポーターがもっとたくさん訪れるだろう。スタジアムは2つのチームカラーがまだら模様になるに違いない。

たとえば、前回のW杯のことを思ってみる。あれだけ多くの日本人とパラグアイ人が、南アフリカという地の1カ所に集まることなんて、歴史上初めてだろうし、おそらくもう2度と実現しないだろう。考えてみれば、奇跡のような瞬間だ。

来年も、そんな奇跡がたくさん起きる。勝敗は確かに重要だけど、かけがえのない出会いはそれに負けないくらい大事だ。

あり得ない出会いに巡り合い、友情を交わす。コンフェデやワールドカップの最もステキな風景だと思う。

2013年6月25日火曜日

嫌いな岡田武史監督を認める、たった一つの理由


コンフェデ杯での3連敗を受けて、ザッケローニ監督に対する批判的な声も聞こえるようになった。自分もザッケローニは迷走していると書いたように、ザックの采配に疑問を持っている。批判があるのは日本サッカー界の成長にとって健全なことだし、必要なことだと思う。

監督への批判と言えば、前回ワールドカップ前の岡田武史監督のことが思い浮かぶ。大会前の親善試合で結果を出せず、厳しい意見が相次いだ。ところがW杯では決勝トーナメントに進出し、一転して「名将」になってしまった。周囲の評価なんてそんなもんだ。

岡田監督は好き嫌いが分かれる監督の一人だと思う。メディアとの確執や気難しく見える性格によって敬遠する人たちがいる一方で、「岡ちゃん」と親しみを込めて呼ぶ人たちもいる。

選手との間に壁を設けるのは、全員を平等に扱うため自らに課したルールだという。だから、チームを強くするためには非情にも思える人選や采配を決断することができる。

また、経営危機に直面していた清水エスパルスのために率先して助力を申し出たというエピソードもある。実は温情派で、決してクールではないというのが身近な人たちの人物評だ。

それでも自分は岡田監督を好きにはなれなかった。最も大きな理由は、彼のサッカーが面白いと思えなかったからだ。どうしても見ていて退屈するサッカーに感じたのだ。

これは、個人の感じ方によるとしかいいようがない。コリンチャンスのサッカーが好きになれないのも同様で、要するに個性を最大限に生かすよりも結果と専守防衛を優先するサッカーが嫌いなのだ。

そんな岡田監督を認める唯一の理由。

それは、彼が海外に挑戦していることだ。

いまや多くの選手が海外で活躍し、結果を出している。しかし、まだ監督として海外で大きな成果を挙げた人はいない。

岡田監督ほどの実績があれば、国内では引く手あまただろう。それでも、あえて中国リーグに飛び込んでいった。いま杭州緑城というチームで指揮を執っているが、文化の相違や反日感情、プロ意識の薄さなど多くの障壁があるに違いない。

でも、たとえ失敗しても、その経験とチャレンジ精神は必ず次世代へと受け継がれる。いつの日か、バルセロナやマンチェスター・ユナイテッドといったビッグネームの監督に日本人が就任することにつながれば、と願う。

「そんなことは絶対無理だ」とは思わない。10年前、マンUやインテルで日本人がプレーするなんてだれが想像しただろう。

ガンバ大阪を率いていた西野朗監督に、将来の夢を聞いたことがある。まだガンバがリーグ初優勝を果たす前のことだ。

監督はやや緊張しながらこう言った。「将来は、世界のビッグクラブの監督になりたい」

早稲田の後輩は一足先に世界へ打って出た。西野監督はまだ夢を追っているのだろうか。

2013年6月24日月曜日

ブラジル人の心をつかんだタヒチ代表~コンフェデ杯=ウルグアイ-タヒチ戦


ウルグアイ-タヒチ戦。スタンドの入りは2万2千人で空席が目立ったけれど、満員の観衆に負けないくらい歓声は大きかった。

もちろん、みんなタヒチの応援だ。相手ゴール近くに球を運ぶと会場は沸き、タヒチDFが後ろでパスをつなぐだけで「オーレ」のかけ声が響き渡る。

ピンチを防げば大きな拍手と「タヒチ」コール。ウルグアイがボールを持ったときには大ブーイングが起きた。

開始2分にCKからゴールを許した後はしばらく耐えていたが、スペイン戦と同じくDFラインの裏を狙われて失点を重ねた。ナイジェリア戦から先発全員を入れ替えたウルグアイと、強豪相手に3戦目のタヒチとでは疲労度の違いも影響したようだ。

それでも必死のプレーは見る人たちに伝わった。2枚目のイエローカードを受けてDFルディビオンが退場した際、観客はピッチから去る彼をスタンディングオベーションで迎えた。退場者へのスタンディングオベーションなんて見たことがない。

世界ランキング138位。プロ選手が1人しかおらず、ほかは教師などのアマチュアだ。タヒチ代表の歴史を通じてオセアニア以外の場所で戦うのも初めてだった。

もちろん、弱者を応援するブラジル人の判官びいきはある。でもそれだけではない感情がブラジル人たちをかき立てたようだ。

タヒチは試合前の握手を交わす際に、相手チームの選手たちに首飾りをかけていた。

スペイン戦の前は、リオデジャネイロのスラム街の子供たちをホテルに招いて一緒に朝食をとり、さらに試合のチケットをプレゼントした。子供たちにとって、スペイン代表の試合をマラカナンスタジアムで見た思い出は一生忘れないだろう。

間違えて「ハイチ」と話すブラジル人も少なくなかったけれど、宿舎にやってきた「にわかファン」たちを快く迎え、サインや写真の求めにもていねいに応じた。

かたやサッカー大国で、かたや太平洋の小さな島国。でも「ビーチと音楽が好きなのは、ブラジルもタヒチも一緒」と彼らは言う。

0-8。試合が終わり、ベンチから飛び出してきたタヒチの控え選手を見て、観客は再び沸いた。それぞれがブラジルの国旗を肩に掲げていたのだ。さらに、「ありがとう、ブラジル」と書いた横断幕を持って観客に感謝の気持ちを伝えた。

試合後の記者会見。FWスティービーは「ブラジル人の温かい応援に本当にびっくりした。心の底からありがたかった」と話した。そして質問に答えて言った。「もしプロになるチャンスが来ることがあれば、なりたい。子供のころからの夢だから」

試合が終わったのは現地の午後6時。翌日午前3時の便で帰国の途に就くという。「選手たちは魂で戦った。ブラジルから離れたくないけれど、厳しい現実に戻ることになる」とエタエタ監督は語った。母国に戻れば、選手たちにはそれぞれの仕事が待っている。

会見が終わると監督は出席した記者たちに歩み寄り、一人一人と握手して回った。こんな光景も初めてだ。

タヒチは試合には負けたけれど、それ以外では勝者だった。自分は握手をしながら「コングラチュレーション(おめでとう)」と声をかけた。会見場を出るとき、記者たちの間から大きな拍手が起きた。

2013年6月23日日曜日

負けたのは酒井宏樹を使った揚げ句、迷走したザッケローニ監督の責任だ~コンフェデ杯=日本-メキシコ戦


ともに敗退が決まっている日本-メキシコ戦。ザッケローニ監督は細貝、栗原、酒井宏と先発を入れ替えてきた。

いわば消化試合だ。いろんな選手を試しに使ってみるのは理屈に合う。

ただ、日本-イタリア戦でも書いたが、なぜ酒井宏なのか理解できない。

所属クラブでも出場機会が少なく、いかにも自信なさそうな消極的なプレーばかり。スピード感もなく、全くチームにフィットしていなかった。イエローカードをもらった場面は明らかに反応が遅かった。

自信がないから相手との距離を詰められず、酒井が守る日本の右サイドはやられ放題だった。メキシコも分かっているから、酒井のサイドを攻める。案の定、簡単にクロスを上げさせて失点した。

これでザックも酒井が使えないことが分かったのだろう。後半早々に交代させた。

ところが、代わりに入ったのが内田。イタリア戦で守備面の不安をさらけ出して交代させた選手を再び入れたのだ。これじゃあ、何のために前の試合で替えたのか分からない。

ザックの打った手は完全に裏目に出た。内田はチチャリットをマークしきれず、CKから失点。試合終了前にはまたもチチャリットを倒してPKを献上した。

負けている状況で、前田の代わりに吉田を入れたのも不可思議だ。ただでさえ得点力の低いチームに必要なのは、より攻撃的な選手なのではないか。

しかも、内田と同様、いったんベンチに下げた吉田を使うのでは、何のために控え選手がいるのかも分からない。テストにさえならない。

ザックは迷走しているようにしか見えない。

結局、シュート数は7本。シュートを打たない日本はいつまでたっても弱いままだと指摘した「シュート打たない病」は相変わらず克服できていない。

ワールドカップまで1年。ザッケローニ監督には思い切った変化を求めたい。

2013年6月21日金曜日

ナイジェリア-ウルグアイ戦を観戦した~コンフェデ杯


世界王者のスペインと、プロ選手が一人しかいないタヒチが同居するB組。この2チームに対して1勝1敗と星勘定すると、ナイジェリア-ウルグアイ戦は事実上の準決勝進出決定戦だった。

試合開始直後はウルグアイが球を支配し、先制点も奪った。浮き球をダイレクトのグラウンダーでゴール前に流したフォルランのパスが絶妙だった。

ちなみに、観客は完全にナイジェリアの味方。ウルグアイが球を持つたびにブーイングが起きた。と言っても、客席はガラガラ。みんな週末にあるブラジル戦のためにチケット代を節約しているのかも。

ウルグアイがリズムに乗っていたのは最初だけで、あとはナイジェリアが押し込んだ。同点弾はチェルシー所属のMFミケル。中盤で球を回していたのが、チャンスと見るやゴール前に張り付いた得点感覚が素晴らしい。パスを受けるとDFをかわし、狙い澄ましてゴールを決めた。

ウルグアイの決勝点はスアレスのドリブルがきっかけになった。相変わらず倒れ込みは多かったけれど(「問題児」スアレスに見る南米サッカーの魂参照)、ゴールへ向かう執念とテクニックは一級品だ。相手を抜いて突進すると、カバニ、フォルランと豪華なリレーをつなぐ。

最後はフォルランの左足。両足から同じような威力のシュートを繰り出せる選手はそうはいない。あのシュートは、南アフリカW杯での活躍を思い起こさせた。

この試合の最優秀選手は代表100試合目を自身のゴールで飾ったフォルランだったけれど、特筆すべきなのはウルグアイの守備だと思う。

押し込まれ続けながら、最後は体を張って防ぐ。危ない場面は無理してつなごうとせず、しっかりと安全策でけりだす。徹底して勝ちに徹した戦いだ。

いいサッカーをして負ける日本と、苦しんでもちゃんと結果を出すウルグアイ。その違いは大差だ。タバレス監督は試合後にこう言った。「ショーを演じるサッカーではなかったが、とても満足している」

そう、華麗なショーよりも結果を出すことの方が大事な試合だった。それを実践できるところにウルグアイの底力を感じる。

ところで、試合後の記者会見で「観客はナイジェリアの応援をしていたが」と問われたナイジェリアのケシ監督は「タヒチと試合した時は、みんなタヒチを応援していたけどね」。

確かにそうだな。

2013年6月20日木曜日

世界を驚かせはしたけれど~コンフェデ杯=日本-イタリア戦


サルバドールにいるので、日本戦はテレビ観戦。ホテル近くの食堂で食事をしながら応援した。

周りのブラジル人たちがみんな日本を応援してくれたのがうれしかった。実況中継を聞いていると、会場も同じみたいだ。

判官びいきだと思うけれど、日本が点を取るたびに歓声をあげて喜んでくれる。それにしても、みんな直前のブラジル戦で盛り上がったばかりなのに、やっぱりサッカーが好きなんだね。

試合は初戦のブラジル戦と比べて、選手たちの体調が改善していたようだ。テレビの解説も「ブラジル戦とは全く別のチームだ」と驚いていた。W杯予選のイラク戦に主力を出す必要は全くなかったのに、疲れたままブラジル戦を戦ったのが悔やまれる。

前半から飛ばしてボールを保持し、リズムに乗ったのが良かった。「シュートを打たない日本はいつまでたっても弱いままだ」で指摘したゴールへの意識も見られた。きっと、選手たちも分かっていたのだろう。

でも、まだまだシュートを打てる機会はあった。終盤の日本のパス回しは華麗で「まるでスペインのようだ」とアナウンサーも興奮しながら実況していた。それだけに、打てる場面でもっと積極的にシュートを打ちたかった。

3得点のうち、流れの中での得点はこぼれ球に反応した香川の1点だけ。いくらボールを回しても、ゴールが決まる場面はそんなものだ。

「世界を驚かせた」「方向性が見えた」など、きっと日本メディアは称賛するのだろう。ブラジルメディアも「今大会で一番いい試合だった」とほめている。
日本がいいサッカーをしたおかげで、目が肥えているブラジル人たちは試合が進むごとにますます日本の応援に熱を入れた。ブラジル人はこの試合のことを覚えている。来年のワールドカップは、きっとホームの雰囲気で迎えることができるだろう。

イタリア相手にボールを支配できたのは自信になるし、本当に楽しい試合だった。

けれど、課題も多い。

内田を交代したのは分かる。あまりにも守備が軽すぎるから。でもなぜ酒井宏なの?案の定、全くダメだった。

川島はミドルシュートへの対応や位置取りなど前回W杯からの課題が全く克服されていない。2試合7失点。川島は代えるべきだと思っている。このまま使い続けるの?

 

ワントップはだれにする?センターバックはこのままでいいの?

2連敗で最終戦を待たずに敗退が決まったというのが厳然たる事実だ。順位表を見れば一目瞭然。世界の序列がそのまま表れている。
最後のメキシコ戦、なんとしても勝って欲しい。そうでないと、「いいチームだった」で終わってしまう。


2013年6月19日水曜日

ブラジルに広がるデモの背景を考える


コンフェデ杯に合わせるように、ブラジル各地でデモが続いている。専門家ではないけれど、その背景を考えてみたい。

きっかけはコンフェデ開幕前、サンパウロでバス運賃の値上げに反対するデモが起きたこと。値上げ幅はインフレ率より低かったものの、大勢の市民が市内の目抜き通り「パウリスタ通り」に集まって行進した。

いったんは収まったかと思われたのだが、開幕戦があったブラジリアでデモが起き、連鎖的に各地へ拡大した。

ブラジル人とじっくり話をすると、意外と愚痴が多いのに気づく。公共交通機関が整備されていないので通勤は大変。サンパウロ圏は人口2000万人を抱えるのに、地下鉄は計78キロ、5路線しかない。ちなみに東京は総延長300キロだ。慢性的な交通渋滞は大気汚染にもつながっている。

インフレ率も高いので生活は楽ではない。サンパウロの物価はニューヨークよりも高いと言われている。

政治家や役人の汚職はひどく、福祉や教育への不満も大きい。サンパウロのヘリコプターの数が世界一多いのは、貧富の差の激しさを示している。交通渋滞を避けるために多くの金持ちがヘリを使っているのだ。

本来は陽気で、楽観的な国民だ。あるブラジル人の知人は「政府が税金を上げるとブツブツ文句を言うだけなのに、自分が応援するサッカークラブが負けると暴動を起こすのがブラジル人だよ」と半ば自嘲気味に言っていた。
  
それが、街に出て不満を訴えている。

押さえつけられて貧困に苦しむ人たちがついに爆発したのか。「中東の春」のように政府を転覆させるような勢いなのか。

そうではない気がする。

ブラジルでは左派政権が続き、労働組合の力がすごく強い。労働者の権利を守ろうと、デモはたびたび起きている。一種のイベントのようで、友人も「楽しいからよく参加する。警察と衝突したら横道に逃げるのがいい」などと屈託なく話していた。

労働者の社会保障は手厚いし、休みや残業代はきっちり保証されている。会社からは昼食代まで支給される。

ジャーナリストの組合もあり、彼らの労働時間は法律によって1日5時間までと決められている。残業を含めても1日7時間までだ。そんなんでいいのか。

外国企業が一番頭を抱えるのがブラジル人の雇用で、数々の手当と社会保障を支払うと、実質的に給料は2倍近くになるのだ。「俺もブラジル人になりたいよ」というのが雇用する側の外国人たちのぼやきだ。

経済は着実に成長しているし、貧困率や文盲率も大幅に改善している。外から見れば、国は確実に上向いており、10年前から比べれば生活もかなり良くなっているはずなのに、国民は納得していないようだ。

国の手厚い保護政策を国民が要求し続けたギリシャは財政破綻したが、根本的なメンタリティーはブラジルも大して変わらないと感じる。ラテン系だしね。

政府への不信感があるのは確か。だけど、デモは本気で怒るというよりもここぞとばかりに便乗して繰り出している人が多いのではないか。怒りが爆発するような、直接的な大きな失政は見あたらないからだ。

映像を見ていると、警察はかなり抑制的に対応しているように見える。むしろデモ参加者の側に危ない連中が多い。

店を壊して商品を盗む輩もいるし、テレビ局の中継車に放火する連中もいて、やりたい放題だ。「暴力はやめよう」と訴えて止めようとする冷静な人たちとつかみ合いも演じている。

デモ隊と警察の衝突では、催涙弾を発射して追い払う警察が非難の的になることが多い。だけど、ブラジルではただ暴れたいだけの連中も多く、「サッカースタジアム内での殺人」で書いたように、一概に警察だけが悪いとは言えない。

ブラジルで生活していると、みんなちゃんと働かないし約束も守らないから物事が進まない。賃上げを要求するストライキも頻発してビジネスが止まる。

スタジアム建設もインフラも大幅に遅れてみんな文句を言うけれど、工事しているのは自分たちブラジル人じゃないか、と思ったりもする。

政府が腐敗していて怒る気持ちは分かるけど、だからと言ってデモ隊に肩入れする気も起きないのが正直な気持ちだ。

気が済んだら、そろそろ仕事に戻ってはいかがだろう。